クロッシング ~北朝鮮の真実~

北朝鮮の指導者は金日成から金正日、そして金正恩になりました。北朝鮮は徹底的な世襲で権力が引き継がれていて、金ファミリーと北朝鮮政府幹部だけが贅沢な生活を送っていますが、北朝鮮に住む国民の餓死の数は300万人以上ともいわれています。

今でも、公開処刑を見せしめのために行っています。金正日の妹の夫の張成沢は金正日亡き後の金正恩の後見人的な立場で、北朝鮮のナンバー2の立場とみられていましたが、2012年12月12日に処刑しています。2011年12月17日に金正日が死去してもうすぐ1年という矢先の出来事で、日本でも大きなニュースになったほどです。

いわば恐怖政治を長年に渡ってしている北朝鮮では、ごく一般的な国民でも「密告」「飢え」「闇市場」「ワイロ」は当たり前です。私たちが想像することすら難しい社会です。ある日突然、隣の家族が忽然と消えていた・・ということも珍しいことではありません。忽然と消えた家族が送り込まれるのが『強制収容所』です。強制収容所ではもちろん満足な食事すら与えられることはありません。ねずみを捕まえて食べられれば、それはご馳走の世界です。強制収容所に入っていた人のコメントを聞くと、暴力・処刑・病死・そして餓死は当たり前です。満足な食事がない中での過酷な労働だけが待っています。

2008年に製作されたた韓国映画【クロッシング】は、2002年に脱北者25人が中国当局の警備をかいくぐり、北京のスペイン大使館に駆け込んだ事件をモチーフにして製作された映画です。4年間の企画と製作期間を経て公開されましたが、監督のキム・テギュンは映画を制作するにあたり100人近い脱北者へのインタビューを入念に行いましたそして脱北者の事実に基づいた脚本を仕上げているため、インタビューで得た100人のエピソードを、1組の家族の人生にまとめています。

映画自体は『フィクション』ですが、『北朝鮮での実際の生活』が分かります。どんな思いで北朝鮮から脱出しようとしたのか。どんな手段で脱出できたのか。そして北朝鮮での生活はどんな生活なのか。独裁国家で生活する人たち、親を失い孤児となった北朝鮮の子供たちがどんな生活を過ごしているのか。その真実の姿をみて何か思うところがあるのではないでしょうか。

クロッシング・出演者

  • キム・ヨンス:炭鉱夫(元サッカー選手)・・・チャ・インピョ
  • キム・ジュニ:ヨンスの息子・・・シン・ミョンチョル
  • キム・ヨンハ:ヨンスの妻・・・ソ・ヨンファ 
  • サンチョル:中国との貿易商(ヨンスの親友)・・・チョン・インギ
  • ミソン:サンチョルの娘・・・チュ・ダヨン

クロッシング:あらすじ ~なぜ脱出したのか?

密貿易で稼ぐことができるのは、北朝鮮ではとても恵まれています。ワイロをもらえたり中国へ渡って北朝鮮にはない物を手に入れることが出来るからです。北朝鮮は食糧難です。北朝鮮で食べ物を手に入れることは死とても難しいこと。食べ物以上に難しいのは薬かもしれません。病院へ行って、みてもらう時には薬を持っていかないと、治療をうけることすらできないのですから・・・

ヨンスの家族は育ち盛りの息子ジュニと、妊娠中の妻ヨンファの3人家族。炭鉱で働いているだけでは、普通に食べていくということすら難しい状況です。ヨンスが中国へ渡るキッカケは?!

北朝鮮での生活

北朝鮮の炭鉱村で、炭鉱夫として働いているのは元サッカー選手のヨンス。ヨンスはかつてサッカー選手として活躍していました。そして北朝鮮から勲章まで貰ったこともあるサッカー選手でした。ヨンスと妻そして可愛い息子のヨンスと三人で貧しい生活を送りながらも、家族仲良く暮らしていました。

炭鉱での仕事が終われば息子のジュニが待っています。ジュニもサッカーが大好きで、父親のヨンスが帰ってくると一緒にサッカーの練習をするのを心待ちにしています。今日もサッカー好きなジュニと一緒にディフェンスの練習をしていたところ、雨が降ってきました。ジュニは「雨が好きだ!」と雨に喜びます。雨が降る中、ヨンスとジュニはボールを蹴りあい親子のふれあいを楽しんでいました。

北朝鮮は食糧難がずっと続いています。ヨンスの家庭も貧しい暮らしのため、決して十分な食料があるとはいえませんがそれでもヨンスの妻は、育ち盛りのジュニのためにたくさんの食事を盛り付けてあげるのでした。そしてヨンスもジュニが食べる姿を嬉しそうに見つめています。ヨンスはこのささやかな幸せを味わいながら日々働くのでした。

ヨンスの親友サンチョルは、中国に従兄弟が住んでいるため北朝鮮から貿易することを許されています。サンチョルは中国と北朝鮮を行き来した仕事をしていますが、貧しい北朝鮮の中で豊かな暮らしをしています。中国から持ち帰る品物の半分はワイロです。そして今回の仕事で”洋酒”を持ち帰っているので洋酒を飲んだことがなく、その味をしらないヨンスに洋酒を 「飲もう」と勧めるのでした。

初めての洋酒を飲みながらヨンスは本を持っているサンチョルに驚きます。サンチョルは文字を見るだけでも頭が痛くなると普段から言っているので、なぜ本??と驚きますが、その本は聖書でした。もちろんヨンスは聖書を見るのも初めてのことです。

サンチョルは聖書について「これはただの本じゃない、天から幸せを降り注いでくれて、毎日の良識を教えてくれる本で、大事な命の本。」そのサンチョルの言葉に興味を持ったヨンスは聖書を読んでみたくなり、借りることにしました。その時にサンチョルは「この本のことは秘密だ」と念押ししました。

ヨンスとサンチョルがお酒を飲んでいる頃、サンチョルの娘のミソンはジュニを自分の部屋へ招き入れます。そして中国の叔母さんが買ってくれたという品物をジュニに見せます。それは「自動鉛筆削り」でした。みるみるうちに鉛筆が削れられる様子をみて、ジュニはただただ驚くばかり。そんなジュニに淡い恋心を抱いているミソンは「この部屋に入った男の人はパパ以外で初めてなの。」と打ち明けると、ジュニは言葉に詰まってしまい照れてしまいます・・・。そして「サッカー中継が始まる!」とテレビの方へ逃げていきました。

サンチョルの家には当然テレビがあります。それも中国製のテレビでした。普通北朝鮮にあるテレビは、他の国の電波が受信できないようにあらかじめ細工が施されています、中国製のテレビなら細工していないので韓国の電波を受信して韓国のテレビを見ることが出来ます。もちろんばれてしまえば大変なんことになってしまうので、テレビをつけるときには用心のためにカーテンを閉めて、そして「この番組を観たことを絶対に言ってはいけない。」と言い渡して、テレビを見るのでした。

韓国のサッカー選手のプレーを見てジュニは興奮気味です。ヨンスは韓国選手のプレーを見て「たくさん食べているからたくさん走れるんだ」と食糧難を恨みます。純粋にサッカーの試合が見れて楽しいジュニですが「この番組を見たことを絶対に話してはいけない。」とサンチョルは言うのでした。

妻の病気

北朝鮮の食糧難は深刻です。炭鉱で働きながら空きっ腹で働くヨンスたちは、お腹いっぱいにするためには水を飲むしかありません。水ばかりをガブガブ飲む毎日に、ヨンスばかりではなくみんながウンザリしていた。

ある日のこと、妻のヨンファが倒れたと聞いてヨンスは慌てて家に向かいます。病院へ行ったところ、栄養失調で肺結核になりそして妊娠中であることを告げられます。そして妊娠中毒症も強く出ていることを聞かされます。ヨンスは医師から、このままの状態ではヨンファは危険だと告げられます。結核の薬それも妊婦用の薬を入手できれば、もちろん手を尽くすといわれ、ヨンスは薬売りを回って薬を探し回りますが食糧難に加えて、北朝鮮では薬を入手することもとても難しいことでした。

聖書を読んでいるヨンスに、ジュニが 「人は死んだらどうなるの?」と尋ねてきます。そしてミソンから聞いた 「人が死んだから死んだ後の世界があって、 死んだ後もまた会うことができると、ミソンの父が言っていたと」聞いた話をしますが、その話にヨンスは否定します。「死んでもいないのに、なぜわかる?」でもジュニは 「僕も死んだ後に、違う世界があればいいなと思う。そこでまた、父さんと母さんと一緒に暮らしたい」

探しても見つからない薬のことで、ヨンスはサンチョルに相談します。このままでは妻は死んでしまう。 何とか薬を入手できないか。サンチョルは 「中国に問い合わせてみる。俺に任せろ!」とヨンスを安心させるのでした。「世話になりっぱなしだ・・」ヨンスは苦しい胸のうちをつぶやきますが、サンチョルは安心させるかのようにヨンスの肩を叩くのでした。

『これでなんとかなる・・』と思っていましたが、思わぬことが待ち受けていました。ヨンスと話しをしたまさにその夜のこと、サンチョルは逮捕されてしまったのです。

韓国の番組を中国製のテレビで観ていたこと、そして密貿易のことも党にバレていました。それだけではなく、韓国人と会っていたこと教会にも行っていたことまでも掴まれていました。

「お前はスパイをしていたのか?」サンチョルは党から疑惑をかけられますが、必死になって否定します。しかし家の天井から、大量の札束と聖書がみつかってしまいました。

「許してください!!私が間違ってました!!」とサンチョルは許しを乞うため死に物狂いで謝りますが、サンチョルは逮捕されてしまいます。

翌日に昨夜の出来事を聞きつけたヨンスは、サンチョルの家に向かいます。サンチョルの家は荒らされていて、そこはもぬけ殻になっていました。

突然の出来事にヨンスは呆然とします。サンチョルの連行は妻ヨンファの薬を入手する唯一の望みも断たれたことになりました。ヨンスは気力を失い絶望の淵に追い込まれていました。家にある食料ももうほとんどなくなっていたからです。これから先の暮らし、薬に食べ物・・思いあぐねている時に目に入ったのが、ジュニの愛犬ペッグでした。

その日食事は肉料理です。久しぶりの肉料理にジュニは嬉しくて嬉しくて仕方ありません。「今日は何の日だった? 記念日でもないし、誕生日でもないし。」肉の骨をペッグにあげようとペッグを捜します。ペッグの姿が見えないことにジュニは気づくのでした。肉料理の肉はペッグの肉だったことに。

「ペッグをどうしたの?ペッグを返して!!!」とヨンスを責め、食べた肉を吐き出してしまいます。そんな息子に 「犬畜生と、お前の兄弟の命とどっちが大事なんだ!」ジュニを怒鳴りつけジュニを叱責するのでした。